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アメリカの大学院生として就職活動をしていた頃の思い出 3
前々回と前回の続き。2019年の春に僕はアメリカでのソフトウェアエンジニアの職を狙って就職活動をしていた。アメリカの南カリフォルニア大学(USC)コンピュータサイエンス修士課程(MS in Computer Science)を修了するほんの二ヶ月前のことだ。
給与交渉と面接のスケジューリング
前々回と前回で二つの会社からオファーをもらったことについて記したが、採用試験のプロセスは同時進行していた。オファーをもらった日はほとんど同じだった。通常はオファーレターを受け取ってから二週間ほどは考える時間をもらえる。このときに他社からのオファーレターをもらっていると給与交渉がやりやすい。「他社からのオファーではXXXXの待遇なので、YYYY程度の給与が欲しい」と強気に出られるわけだ。
就職活動をする人はできるだけ同時期にオファーレターをもらえるように面接のスケジュールを調整するわけだが、これがなかなか難しいことだった。というのも、面接は移動も含めて一日以上かかることもあるからだ。
ステップが進むと会社のオフィスで行うオンサイト面接の機会がもらえる。五人ほどの人と会い、半日ほどをかけて行われるのがよくあるオンサイト面接の形式だ。コーディング問題をホワイトボードに書きながら解いたり、Webアプリケーションの設計や起こりそうな問題についてディスカッションしたり、過去の経験について語ったり、会社の文化について質問したりする。面接の間はずっと考えっぱなしだし、話し続けるので疲れる。ただでさえ時間がかかるうえに、オフィスが遠くにあると飛行機で移動することにもなる。自分の裁量でスケジュールを調整しやすい学生にとってさえ難儀だったのだから、フルタイムで働く人には頭が痛い問題だろう。
僕が新卒就活で行った街をあげると、以下のようになる。
- パロアルト(Palo Alto)
- サニーベール(Sunnyvale)
- ニューヨークシティ
大学院の試験前だというのに、よくこれだけ行ったものだ。当時住んでいたロサンゼルスからニューヨークシティに移動すると、それだけで半日はかかってしまう。シリコンバレーのパロアルトやサニーベールに行くのも、自宅からLAX(ロサンゼルス国際空港)へUberかLyftで行き、そこからSFO(サンフランシスコ国際空港)やSJC(サンノゼ国際空港)に飛ぶので待ち時間を入れるとそれなりの時間が必要になる。
TripleByte経由、パロアルトでの面接
TripleByteとはなにかというと、コーディング面接を会社のかわりにやってくれるサービスだ。ソフトウェアエンジニアを採用したい会社にとっては面接やリクルーティングのコストを減らせるし、就職したい人にとっては多くの会社に応募して面接を受ける手間を省ける。新井康平さんの記事を読んでもらえば概要はつかめると思う。
TripleByteの面接プロセスは非常によくできている。正直なところ、GoogleやAmazonのコーディング面接より何段階かレベルの高いものだと思う。TripleByteについてはまた後日記事を書きたい。
とにかく、僕はTripleByteのコーディング面接を受けてパスした。結果、いくつかのスタートアップを紹介してもらえた。何度か電話でリクルーターと話をし、マッチしそうなところとオンサイト面接をすることになった。
その会社はシリコンバレーの中心、パロアルトにあった。ビジネスにできるのが不思議に思えるような仕組みを提供している会社だった。調べてみたところ、いまはシリーズCで、従業員は100人以上いる。
TripleByteの試験をパスしたのでコーディング面接はやらないことになっていたはずだが、普通に現地でコーディング面接を受けた。そしてオファーはもらえなかった。
サニーベールでの某巨大企業の面接
知人のリファラルで某巨大企業の面接も受けた。
サニーベールのビルをよく憶えている。だだっ広い敷地にガラス張りの構造物が適当に並んでいた。いまGoogle Mapsで調べてみたところ、GoogleとAmazonとFacebookとMicrosoftのオフィスがほぼ隣接して建っているようだ。
雑にGoogle自転車が駐めてあった。
会社が用意してくれたホテルがかなりよかった。面接に来ただけなのにありがたい。
なおオファーはもらえなかった。
ニューヨークシティの面接
僕はニューヨークシティに来ていた。
スタートアップと呼ぶには大きくなった日本のある企業が、アメリカ拠点としてニューヨークシティにオフィスを構えることになった。そこの採用面接を受けないか、と誘われたのだ。僕がDeNAで働いていたときの同僚がその企業の日本オフィスで働いており、その縁で僕を紹介してもらった。
CEOと簡単な電話面接を何度か行い、ニューヨークシティのオフィスでオンサイト面接をすることになった。当然のことながら航空券や UberとLyft での移動、ホテル代などすべて支給してもらえた。
面接の結果オファーはもらえなかったが、とてもよい体験だった。
その日に僕は MUA, Inc. の人たちと対面する機会を得られた。
MUAの面接
MUAのオフィスはマンハッタンの WeWork にある。飛行機の時間が迫っていたので僕は急いでそこにやってきた。古いビルだが内装はきれいだった。MUAの河野さんたちと僕は初めて対面し、キッチンとソファのある共有スペースで話をした。
僕がMUAの人たちと知り合った経緯について少し書こうと思う。
2018年の初夏。インターンシップで有名企業の面接にさえ行けなかった僕は、リファラルがないと話にならないことに気づいていた。そこで、まずはアメリカ企業の人と知り合いになることから始めようと考えた。
僕はふとLifehackerの河野さんの記事を思い出した。河野さんは日本出身でサンフランシスコのTwitterに勤めたのち、ニューヨークシティのスタートアップでソフトウェアエンジニアをしていた方だ。
河野さんのTwitterアカウントにメッセージを送ることにした。「2019年5月に卒業するのだが、採用を考えてくれないか」という内容だ。返事はすぐに来た。「卒業が近くなったらまた話そう」ということだった。
2019年になってから連絡をとったところ、ぜひもういちど話そうとなった。このとき河野さんはMUAに転職していた。MUAはちょうどニューヨークシティで働けるソフトウェアエンジニアを探している、ということだった。
Skypeで求める人材や使っている技術について話し、コーディング面接のようなものをした。よい評価をもらえたようで、もし機会があったらニューヨークシティでオフィスを見に来てほしい、と言われた。
そして上に書いたように、別の会社の面接でニューヨークのマンハッタンに来ることになったため、ついでにMUAのオフィスを訪れた。
当時オフィスにいたのは河野さんを含めて二人だけで、小さなチームを今から立ち上げようとしている時期だった。彼らと仕事内容や目指すゴールなどについて話し、僕はMUAに入社することを決めた。
待遇は最高ではなかったが、求めていた環境がそこにあった。僕は小さなチームで自分の力を磨きたかった。また、成長してゆく会社に身を置きたかった。もしも成熟した会社に入ってしまうと、自分の力でできる領域が小さく、自分の価値を感じられなくなる気がしていたのだ。
そういうわけで、僕はMUAに入った。
続き
MUAで働き始めてからの話は別の機会に書こうと思う。